2023年9月29日金曜日

墓場から呪いの手

 円谷には東宝変身人間シリーズなる一連がある。本作その系譜とみると俄然おもしろくなる。男を主人公とみれば。ありふれた恐怖劇にすぎない。しかし女の事件簿な哀しき女版変身人間シリーズだとするとどうだろう。犯人の男によって女は腕人間にされてしまった。女としての根拠をことごとくうばいさられてしまったのだ。乳房も子宮もバラバラにされて。女は指輪とあかいマニキュアのながい爪それだけがみずからにのこされた女としての存在根拠といわんばかりに。地面をその爪でひっかき不快な音をたて進撃する。復讐というにはあまりにも不器用でただ実存につきうごかされているだけにみえる。あまりにもせつなすぎる女モンスターの姿。本作。牧紀子の鬼気せまる死体名演技からはじまり愛する男ととの墜落死でおわる。みるみるミイラ化していく腕人間。指輪とマニキュアばかりがものいいたげだ。これはガス人間水野が花輪のもとで黒こげの姿に実体化するのとかさなり。そのやりきれなさはハンパない。藤千代の腕の中でではない。名声の残骸の花輪の下でである。腕女も男のもとでではない。すぐそこに相手がいるのに戦争でひきさかれた男女のようなこの絶対的な孤独感。バラバラにされたのではなくこの女は元々バラバラだった空虚な女。それが男にみつぐ事で一瞬かがやきまた無にもどっただけなのかも。そうかんがえるといかにもむなしい。

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